WORDS POWERの作法

例えば…「超える」と「越える」にこだわるということ

 最近テレビを見ていると、日本人が話しているにもかかわらず、言葉に合わせてテロップがよく流れています。昔と比べて明らかに数が多いと思うのですが、増えたせいもあるのか、誤字脱字も非常によく目立ち、人の名前の場合などにはキャスターが後で頭を下げる光景もよく見掛けます。
 テロップを入力するのはコピーライターなどという職ではなく、映像の編集者が若手等を使って入力する、いわゆるオペレーター作業です。そこには恐らく言葉に対するこだわりはあまりないでしょう。正確に入力しようと心掛けるだけ。しかし、言葉の意味も分からず単純に入力しているだけでは、変換ミスは無くなりません。
 例えば「超える」と「越える」。前者は基準を超えてさらに上へ突き進む、後者は基準を通過する、またいで越えていくという意味があります。言うまでもなく言葉、この場合漢字には長い歴史があり、意味を使い分けてきたからこそ2つの表現があるわけです。その正確な使い分けは、日々の生活の中で目にする私たちに自然に染み付いており、無意識のうちに誤用されたものを見ていると、すぐ気づかないとしても、どこか気持ち悪さというものが残るはずです。
 コピーライターたるもの、漢字の姿形から人に与える印象というものを常に意識して誤植を無くし、よりストレートに、スピードもより速く、言葉の意味が伝わるよう努めるのが商売だ、と思っています。

デザインとコピーの温度差

 デザイナーとコピーライターは同じ職場で仕事をする者同士で、お互いになくてはならない存在。しかし、時にお互いいぶかしく思うことがあり、その原因はやはり、こだわりです。
 余分な言葉を削ぎ落として表現すれば、デザイナーという生き物は、「感覚」で生きています。「何となくこの色いやだ」「何となくこの形気持ち悪い」…この何となく、というところがミソで、そこに論理性はあまりありません。逆にコピーライターは「論理」の生き物で、文章を書いても起承転結だったり、筋の通ったオチというものを常に考えています。
 コピーライターである私も、色味の数パーセントの差にはあまりこだわりません。見る人によって「感覚」が違うからです。しかし誤植にはうるさい。その言葉の意味が誤りとなるからです。意味が○か×か、非常に明快な論理です。
 数パーセントの色味にこだわるデザイナーは、不思議と誤植には無頓着で、私の経験上、お客様もデザイナー的感覚で見られる方が多いようです(たとえ非常に論理的に話ができそうな大卒事務職の方であっても)。言葉は誰だって話せるし、書ける。でもデザインはその勉強をしてきた人でなければ、素人がたやすくできるものじゃない。そんな考えがお客様にも垣間見えると淋しく思うこともよくあり、専門職としてのライティング作業の地位をもっと高めていかねばと思うのです。その説得力を強めるには常に良い文章を書き、お客様が望む結果にストレートに直結する表現ができるライターであることなのです。

ライターは企画のプロ、"孫の手"でもある

 論理が苦手なデザイナーと違い、コピーライターがプランナーを兼ねることはよくあります。私もプランナーとして、企画書をつくり、コンペでプレゼンテーションをして仕事を勝ち取ったことがあります。ライターは企画のプロでもあるのです。
 そもそも「企画」とは何か? 私にとって企画とは、端的に言えば"孫の手"です。少々唐突な例えですが。
 企画とは文字どおり「企てる」「画策する」ことであり、原点には"欲"が存在します。つまり「ああしたい」「こうしたい」といった願望から始まるもので、人は皆、日常生活で大なり小なり、企画をしながら生きているといっても過言ではないでしょう。
 しかし、大半の人がその願望をかなえようと試行錯誤を重ねるが、壁にぶつかり、企画の多くが暗礁に乗り上げる。そこで"企画屋"プランナーという商売の登場です。
 企画を生業とする人間は、大半の人がぶつかる壁を壊す、あるいは乗り越える術を身に付けています。「なるほど!そうすればよかったのね」と、まさにかゆいところに手が届いた率直な感想が寄せられる。それはまるで、孫の手で背中の届かなかったピンポイントを探り当てたときのよう。その醍醐味、お客様の喜ぶ顔が見たくて、私は喜んで孫の手になりたいと思うのです。
 企画が達成されると、人は気持ちよくなります。しかし、プランナーにとってそれを商売としている以上、最大級の気持ちよさ、あるいは企画達成に伴う付加価値をお客様に与えることが求められます。そこが他のプランナーとの差別化となるのです。
 そのため、プランナーの孫の手は、「孫悟空の如意棒」であることが理想です。縦横無尽に大きくもなり小さくもなり、ツボを刺激する部分が6本指になったり、あるいは効率的に達成できるよう持ち手のグリップの形状さえ変える。企画内容に応じて、柔軟に対応できなければなりません。
 お客様にとっての最大級の気持ちよさ、それが与えられるか否か、そこがプランナーの力の判断材料となります。そして私たちが常に念頭に置いて行動しなければならないのが、企画の目的。目的が何であるかをブレがなく堅持した上で初めて最大級の気持ちよさ、付加価値に到達できるのです。

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